10月31日のゆめにき

体育館の床にアヒル座りをして呆けてたらいつの間にか膝ぎりぎりまでが人工の池みたいになっていて水は抹茶みたいなおいしそうな色だった。でもそんなの予定調和よね、と思ったのであまり気にせず体育館から部活棟につながる渡り廊下を眺めてたら上半身は人間で下半身が微妙に魚っぽくなってる人?がこっちにやってきた。大人一歩手前の微妙な年頃な感じの。「あーこの人ちょこっと苦手なんだよなあ」と思ったら顔に出ちゃったらしくその人は引き返してしまったので罪悪感とかそこらへんを偽善的に打ち消すために大声で呼んで引き止めたら嬉しそうに抹茶池を泳いでやってきて、プールサイドにつかまるみたいにごく自然に私の膝に腕をのっけてにこたらにこたらしていた。なんだか可愛いなぁって思った。ペット的な意味で。私と魚の人は何時間だか何日だか何年だかはよくわからないけどずっとそこで一緒にいて、お腹が空いたとか眠いとかトイレとかの生理的欲求も全く無かったので休むことなくおしゃべりをしていた。案外いい人で一緒にいて楽しかったけど私はなんなのだかよくわからないもやもやした気持ちで過ごしたり「ああでも私は魚の人の名前さえ知らない」と落ち込んだりとかもしてみた。でも困ったことに仲良くなるにつれて魚の人はどんどん魚に近くなっていってしまって、下半身だけではなく上半身も魚になりつつあった。その風貌はあたかもフナだったから私は魚の人のことをフナ夫くんと呼ぶことにした。女かもしれないけどそう呼んだほうがしっくりくるような気がして。フナ夫くんが例えサメくらいの大きさのフナになっちゃったとしても好きだったから別にそれでもいいかなぁとぼんやり思っていたらいつの間にかフナ夫くんは鼻以外は完璧にフナに変わってしまっていた。フナ夫くんは鼻だけ人間なのを酷く気にしていたようだったので爪切りでパッチンと切ってあげたのだけれど鼻がパッチンと飛ぶ直前に痛がってないかなぁとフナ夫くんの顔を見たら魚なだけに表情はもう無くなっちゃっててフナ夫くんは痛がってるのか平気なのか死んでいるのかよくわからなくなってたけど私はそれでもいいかなあと思った。